「女性らしさ」の呪縛にとらわれることなく、体型の違いも含めた多様な価値観を受け入れよう――、水島広子「「やせ願望」の精神病理:摂食障害からのメッセージ」を読みました!
登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!
登場人物とあらすじ
引用:「やせ願望」の精神病理 / 水島 広子【著】 – 紀伊國屋書店ウェブストア|オンライン書店|本、雑誌の通販、電子書籍ストア
摂食障害の捉え方と治療 のお話。
<あらすじ>
女性はやせている方が美しい、やせている人は自己コントロールができる有能な人――そんな価値観が支配する現代の日本で、拒食症や過食症(=摂食障害)という心の病に苦しむ女性たちが増えている。
現在は衆議院議員として多方面で活躍中の著者は、日本ではまだ数少ない摂食障害専門の精神科医でもある。
本書では、摂食障害はわがまま病、幼児期の親の育て方が悪いと子どもが摂食障害になるといった、この病気についての多くの誤解と偏見を正して、予防と治療のための正しい知識を提供する。
こんな人におすすめ
- 摂食障害当事者もしくはその家族であり、摂食障害について理解を深めたい
- 摂食障害を治療したいが、これまでうまくいかなかった
- 摂食障害を完治させたい
ネタバレ感想
「拒食症・過食症を対人関係療法で治す」

とまるまる同じことが書いてあり、新しいトピックはほぼありませんでした。
ただ、同じ内容を二度読んだことで、対人関係療法の考え方への理解が深まったのは良かったことだと思います。
注意すべき点としては、前の本でも本書でも対人関係療法の具体的な治療方法(コミュニケーション分析の具体的な方法)に関してはあまり触れられていないので、「近くに対人関係療法をしてくれる医者がいないから、自分で試行錯誤したい。コミュニケーション分析の方法を知りたい」という方にとっては、本書はあまりにも概念的すぎると思われます。
前の本には書いておらず、本書で特に心に響いた箇所を3点ご紹介します。
①本当の自己コントロール=自分の意思を強く持って痩せられること?
本当の自己コントロールとは、病気にならないように、健康が維持できる範囲内に仕事をコントロールし、限界を感じたときには正直にそれを伝えて周りの人に理解してもらい助けてもらうということなのだと思います。
本当の自己コントロールとは、病気にならないように、自分の痩せ願望をコントロールしていくこと、そして痩せ願望が肥大しないように体重関係のストレスを言葉で解決していくことなのではないでしょうか。
自己コントロールの能力が高いと言うのは自己志向が高いと言うことにも通じます。周囲に流されることなく、自分の健康を守っていけるというのが、あらゆる社会人に要求される資質なのではないでしょうか。
これらの言葉はかなり心にグサッと刺さりました。私は人に助けを求めるのが苦手ですが、それを欠点だと思いつつも、なんでも自分一人でできるということに優越感を抱いていた部分もわずかながらあったのです。
でも、それはただ単に、限界を超えて辛いのに助けを求められないというコミュニケーション下手なだけであって、褒められることではないのだ…と反省しました。
自分の力(意思)で自分の心身の健康を守れること=自己コントロール能力が高い=自己志向が強いことなのだとしたら、自己志向を高めるためにはもっと人を頼れるようにコミュニケーション能力を磨かねばと思わされました。
②無駄のない自然な姿=贅肉がないこと?
本当に無駄のない自然な姿と言うのは、全力がないと言うことではなく、体型をいじるために不毛な努力を繰り返さないと言うことなのだと思います。
自分の本来の体型を肯定している姿を見せることこそが自然な姿であり、シンプルなライフスタイルなのだと思います。
もっと痩せられるはずと思えば思うほど、自己志向が低下していくと考えるべきです。
私自身、シンプルなライフスタイルがとても好きで、部屋にはなるべく物を置かないように気をつけています。(掃除が好き…というか、掃除を頻繁にしないと人としてダメな気がするという思いから、掃除がしやすい部屋にしたいという気持ちもある)
ですが、シンプルな部屋に対して、自分の体は贅肉だらけ。物心ついた時から私はぽっちゃり体型でした。それが本当に嫌で、標準体重ではまだまだ太っていると思い、何度も過激なダイエットに挑戦してきました。
16時間何も食べないダイエット、プロテインしか飲まないダイエット、毎日1時間以上筋トレと有酸素運動を行うダイエット、断食…などなど、数えきれないほどです。
それらをすると短期間で痩せはしましたが、すぐに10数キロもリバウンドしたりと全くいい結果には結びつきませんでした。なのに、短期間での結果を求めて何度も過激なダイエットを繰り返して…そして30数年が経ちました。
「体型をいじる不毛な努力を繰り返さないことこそ無駄のない自然な姿」というのは、万年ダイエッターの私には目から鱗でした。常に「もっと痩せられる」と自分を追い込んできたからです。
そのままのあなたでいい、無理に痩せなくていいんだと夫は認めてくれても、ずっとその言葉を素直に受け入れられずにいました。けれど、水島先生の言葉を聞いて、今の自分こそ無駄のない自然な姿なのだと、やっとありのままの自分を認めてあげられそうな予感がします。
無理なダイエットはせず、健康であることを第一に考えて生活していこうと思いました。
③「痩せて人生を180度変えたい」と考える摂食障害患者について。自己志向を高める生き方とは?
人間はそれほど変われないものです。遺伝的に多くのことが規定されていますし、自分の環境も思い通りにならないことの方が多いのです。
1本のつながった線の上を試行錯誤しながら、自分を振り返りながら少しずつ歩んでいくそれが自己志向を高める生き方なのではないかと思います。
痩せれば全てがうまくいく…そんなことはないと言われても、ずっとぽっちゃり体型だった自分は「それこそ嘘だ」と反射的に思ってしまいます。実際、社会では痩せている女性が「美しい」と褒め称えられ、少し太っただけで同性からも異性からも揶揄われたり馬鹿にされたりするからです。
ただ、「人間はそれほど変わらないものだ」という水島先生の言葉には頷けるところもあります。確かに外見だけが変わっても、自分のコミュニケーション能力が今のままなら、対人関係はさほど変わらないだろうと容易に予想がつくからです。
自己志向を高めて自分の今の体型に自信を持ちたいと思っても、一朝一夕にはいかないとは分かっています。過去の自分を振り返りながら、もうあんなにたくさん食べては吐いてと辛い気持ちになる日々は送るまいと心に言い聞かせ、少しずつ成長していきたいです。
まとめ
「拒食症・過食症を対人関係療法で治す」と内容的にはほぼ同じですが、本書は中古でもかなり高値(私が買った時は4,000円ほどでした)になっています。「拒食症・過食症を対人関係療法で治す」の方がまだ市場在庫がある(中古価格でも安い)ようなので、値段が気になる方はそちらを選ぶと良いかも。
ただ、本書は「拒食症・過食症を対人関係療法で治す」+αという感じなので、対人関係療法に関してより情報量の多い一冊を持っておきたいならこちらを買う方がお得かもしれません。
14歳頃に始めてから早20年、何人もの精神科医に摂食障害について何度も相談してきましたが、誰も本気で治療してはくれませんでした。「うつ病に摂食障害はつきものだから」となだめすかされるばかりで、自分の過食嘔吐は一生治らないのだと絶望していました。
でも、対人関係療法を知ったことで、一筋の光が見えてきたように感じます。
自分もいつか治るのではないか、そして、治った自分は今よりもっと良い自分になっているのではないか。
そう思えるようになってから、生きることがこれまでよりも苦しくなくなったように感じます。過食嘔吐してしまうことへの恐怖はまだありますが、以前よりずっと穏やかな気持ちで自分の過食嘔吐の症状を受け入れられるようになりました。
対人関係療法をもっと詳しく知り、コミュニケーション能力と自己志向を高めていきたいです。
日本では対人関係療法自体があまり進んでいないということで、グループ治療もあまり存在しないようなので、いつか過食嘔吐に悩む人たちを集めて苦しみを吐露できるような場所作りができたらいいなと夢を描いています。